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留学同情勢ニュースブログ

留学同(在日本朝鮮留学生同盟)が朝鮮半島情勢をはじめとして様々な情報や見解を発信するブログです。

徴用工問題の論点を整理する~「個人請求権」と「解決済」論~

  10月30日、大韓民国大法院(最高裁)において一つの判決が下された。

 この裁判は朝鮮半島が日本の植民地時代に日本の企業である新日鉄住金(旧新日本製鉄)で強制労働を強いられ、賃金も受け取れなかったとして、朝鮮人の元徴用工4名が、1997年に日本で損害賠償を求める訴訟を起こしたが敗訴し、同問題を2005年と2012年に韓国の裁判所に提訴、高等法院(高裁)が差し戻し控訴審で個人の請求権を認める判決を下していた。

 新日鉄住金は判決を不服として上訴したが、韓国大法院(最高裁)は、個人の請求権を認めて、新日鉄住金に賠償を命じる判決が確定した。

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 韓国最高裁 新日鉄に4千万円賠償命じる=徴用工訴訟で原告の勝訴確定 http://japanese.yonhapnews.co.kr/headline/2018/10/30/0200000000AJP20181030002400882.HTML

  「一人で来たことに涙が…」77年ぶりに恨を晴らした“徴用被害者”イ・チュンシク氏
 http://japan.hani.co.kr/arti/politics/31981.html

  今回の大法院判決で認められたことは、大きく「日本政府の朝鮮半島での不法な植民地支配と侵略戦争の遂行に関わった日本企業の、反人道的不法行為を前提とする慰謝料の請求権」である。

 本稿では、今回の裁判を中心にしながら、日韓請求権協定における「個人請求権」と「解決済み」論について整理していきたい。

1.日本社会における反応

 今回の判決に対し日本政府の反応は、1965年の日韓請求権協定によって個人請求権の問題は完全に処理されていると主張し、日本の主要なメディアもこれに同調している。

 【朝日】徴用工裁判 蓄積を無にせぬ対応を(https://www.asahi.com/articles/DA3S13747548.html

 【読売】「徴用工」判決 日韓協定に反する賠償命令だ(https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20181030-OYT1T50161.html

 【毎日】韓国最高裁の徴用工判決 条約の一方的な解釈変更(http://mainichi.jp/articles/20181031/ddm/005/070/128000c

 【日経】日韓関係の根幹を揺るがす元徴用工判決(https://www.nikkei.com/article/DGXKZO37149270Q8A031C1EA1000/

 【産経】「徴用工」賠償命令 抗議だけでは済まされぬ(https://www.sankei.com/column/news/181031/clm1810310002-n1.html

 新日鉄住金副社長、改めて「遺憾」 元徴用工判決(朝日新聞 2018年11月2日)
 https://www.asahi.com/articles/ASLC255SKLC2ULFA01B.html

 日本政府が企業に対して「強制徴用賠償に応じるな」説明会(ハンギョレ2018年11月1日)
 http://japan.hani.co.kr/arti/international/32003.html

 まさに植民地支配責任などを完全に無視した姿勢でしかないが、主張しているのは「日韓請求権協定で、解決済みである。」という論調である。

 この論調を
① 世論における個人請求権の解釈
②「解決済み」論に対する対抗理論として
という部分に着目して整理していきたい。

2.2つの論点の整理

 論点を整理する前に、日韓請求権協定について簡単に説明しておきたいが、1965年に結ばれた日韓請求権協定は、アジア・太平洋戦争の戦後処理として1951年に締結されたサンフランシスコ講和条約を基本にしており、このサンフランシスコ講和条約に基づいて「韓日両国間の財政的・民事的債権財務関係を政治的合意によって解決するためのもの」で、当時徴用犠牲者の未払い賃金やそれにまつわる補償として日本側が資金を拠出することとなった。
 したがって日本の植民地・戦争政策に深く加担した新日鉄工業の違法行為に対する慰謝料は含まれないという解釈であり、そのような論理で成り立っていることを予め頭に入れながら、これら韓日間の争点、問題とされている部分とその解釈を2つの論点で整理していきたいと思う。

①世論における個人請求権の解釈

 1965年の日韓請求権協定の解釈に対する議論は、韓国でも日本でも行われているが、日本政府は過去にこの解釈について、個人の請求権に関しては消滅していないことを認めている。

 日本政府 国会で「個人請求権」認めていた=「自己矛盾」との批判も(2017.8.20 聯合ニュース) http://japanese.yonhapnews.co.kr/headline/2017/08/20/0200000000AJP20170820000400882.HTML

 また、1991年8月27日の参院予算委員会において、当時の柳井俊二・外務省条約局長は、
 日韓請求権協定における「両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決した」という文言の意味を答弁しており、政府としての立場を明らかにしている。(PDF 9ページ、柳井局長発言は10ページから)
 http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/121/1380/12108271380003.pdf

  「その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます

 また、1992年2月26日の衆院外務委員会においても、次のような発言をしている。(PDF 9ページ、発言は10ページから)
 http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/123/0110/12302260110002.pdf

  「個人のいわゆる請求権というものをどう処理したかということになりますが、この協定におきましてはいわゆる外交保護権を放棄したということでございまして、韓国の方々が我が国に対して個人としてそのような請求を提起するということまでは妨げていない
 「この条約上は、国の請求権、国自身が持っている請求権を放棄した。そして個人については、その国民については国の権利として持っている外交保護権を放棄した。したがって、この条約上は個人の請求権を直接消滅させたものではないということでございます

 このように個人請求権があるということは政府の立場からも断言しているため、現在言われている請求権の問題については、解釈のすりかえが読み取れるだろう。

②「解決済み」論に対する対抗理論として

 現在、日本国内において、日韓請求権協定で「解決済」と取りざたされている。しかし、本当に「解決済」と言えるのであろうか?

 日韓請求権協定において、そもそも日韓併合(植民地支配)自体を不法行為と見ていないという事実から鑑みると、日韓請求権協定において拠出された資金の性格は、個人の経済的損失を「補償」するというものでしかなく、違法(不法)行為に対して「賠償」するものではない。つまり、「賠償」としての慰謝料は支払われていないということが確認できる。また、あくまで「経済協力金」という名目であり、実質は民事的補償を行ったまででしかなかった。

 また、今回の判決は当時の国際法に照らし合わせたとしても、妥当な判決である。(日本は1932年に強制労働に関する条約(ILO29号条約)に批准している。)
 日韓請求権協定を反故にしているのではなく、むしろ新たに人権的な観点から救済しようという画期的な判決であったといえる。
 そもそも日韓請求権協定は政治的合意にすぎず、先に述べたように植民地支配の違法性も認めていない。その上で「経済協力金」という性格で韓国側に資金を拠出したまでであり、植民地下の不法行為に基づく犠牲者たちの慰謝料は日韓請求権協定に含まれていないことは事実である。
 そこで考えられるのは、植民地下における不法行為に対する慰謝料の請求権を追及するという方法である。つまり、日韓請求権協定を覆すという視点ではなく、むしろ日韓請求権協定に含まれていなかった内容を追及するという対抗理論である。

  “청구권협정은 정치적 합의일 뿐…청구권 시효도 남아있다”(請求権協定は政治的合意なだけ・・・請求権時効も残っている。)【京郷新聞】
 http://news.khan.co.kr/kh_news/khan_art_view.html?art_id=201810302223025#csidx7adf990168e7101a4f7695e3a8ba8d6

3.まとめ

 このような歴史的背景や法の解釈などを無視し、「国際法に照らしたありえない判断」と一蹴することは、国際法や人権に関して無知をさらけ出すようなものである。日本社会ではこれに流され、深い考察や検証も無しにイメージや感情がひとり歩きしている。 この問題の論点となるべき部分は、植民地期と戦時体制の中で踏みにじられた人々の人権であり、二度と人々の人権と尊厳が踏みにじられることが無いようにすることであるはずだ。

 今回の新日鉄住金に限らず、植民地下における朝鮮人強制連行(徴用)犠牲者たちは、強制または虚偽の情報に騙され(誘拐、甘言)過酷で劣悪な環境での労働を強いられ、賃金も強制的に貯金させられ常時監視を受けながら監禁状態(監禁罪)におかれ、脱出が発覚すると逃亡を阻止するため暴行を受けることもあった(傷害罪(暴行罪))。
 このような明らかな違法行為と、それによって踏みにじられた人権に対して、慰謝料を払えということは当たり前のことであり、今回の判決のような人権的観点に論点をおいた判決を相対化させ、外交問題にし、それを抑圧する日本政府の非人道性は明らかである。

 日本政府の姿勢は、在日朝鮮人に対する差別的政策にも如実にあらわれており、歴史認識の欠如、またそこに向き合おうともしない強硬な姿勢がうかがえる。
 日本が犯した植民地支配という重大な人権侵害行為によって、数多くの朝鮮人の尊厳は踏みにじられ、また現在も踏みにじられつづけている。これはすべての朝鮮人に対する冒涜であり、歴史の歪曲である。今後も日本の植民地支配責任を問い続けていく必要がある。
 真の友好関係は植民地主義の清算なしではありえないということが、今回の裁判やそれを取り巻く世論を見ても、より切実な問題として浮かび上がるのではないだろうか。(婀)
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